開催レポート[渡邊美由紀]
地域芸能の現場をフィールドワークする 第2回(伊江村)
概要
2月13日(木)、「伊江小学校×坂元小学校 子ども芸能交流会&伊江村タウンミーティング」を開催しました。伊江村立伊江小学校5年生と宮城県の山元町立坂元小学校4年生がテレビ会議システムを活用して行う「子ども芸能交流会」は2年目になります。午後の部では、「伊江村タウンミーティング」と題して、伊江小学校教諭を中心とした参加者でグループディスカッションを実施し、最後はそれぞれが3年後の自分に宛てて、地域芸能の継承に対する今の思いを手紙にまとめました。
伊江小学校での「子ども芸能交流会」と「伊江村タウンミーティング」に参加された神野知恵さん(国立民族学博物館機関研究員/民族音楽学、民俗学)、増野亜子さん(東京藝術大学非常勤講師/民族音楽学、インドネシア芸能研究)、渡邊美由紀さん(宮城県名取市立下増田小学校校長[前・坂元小学校校長])に、それぞれの視点から当日の様子についてレポートをご執筆いただきました。
第2回 子ども芸能交流会&伊江島タウンミーティングに参加して
文/渡邊美由紀
前年度までの約2年間を宮城県山元町立坂元小学校で勤務したので、第1回の立ち上げを共に進めてきた。第1回を振り返ると、「これまで経験したことのない手段(Skype)で、宮城から遠く離れた地域(沖縄県)の子供たちと地域芸能を通して交流会が可能なのか」と、少しの不安を抱えて、沖縄県立芸術大学の呉屋准教授、向井准教授を中心に関係者(教職員、神楽保存会)と進めた。平成31年2月、伊江小学校の5年生と坂元小学校4年生の芸能交流会。互いの芸能を見合い、芸能を経験したことでの思いを語り合った。十分に理解するまでには至らなかったが、両校の子供たちの地域芸能を受け継ぐことができたという誇りを感じた。また、それぞれの芸能の良さを感じ、互いを認め、更に向上したいという意欲の高まりを感じた交流会であった。第1回を終え、坂元小学校では総合的な学習の時間で交流会の振り返りを行い、一人一人の交流会を通しての学びをまとめた。初めての交流会を終え、引き続き交流会を行いながら地域芸能を継承している子供たちのつながりを大切にし、持続可能な手立てを講じられるよう考えたいと感じた。
今年度、第2回の芸能交流会が行われた2月13日、伊江小学校で参加したところ、昨年度との違いがいくつか見られた。
まずは、交流会に向けて呉屋准教授、向井准教授の助言をいただきながら、教職員や保存会の方々が見通しを持って実りあるものを目指しながら計画し進められていることである。具体的には、両校の芸能を披露する場面で、昨年度は衣装ではなく体育着で行ったが、今年度は実際の衣装や楽器を用いて本来の様子を見せ合った。そうしたことで子供たちは互いの芸能の大きな違いを感じ興味を持っていた。
次に、意見の交流の場面で、3つの観点(「やってみての感想」「地域の方から教えてもらっての感想」「これからどうしたいか」)について子供たちが自分の考えをしっかりと伝えることができた。子供たちの思いは深いものが多かった。「不安があったが、練習を続ける中で上達していることを自覚した」「あこがれの師匠、両親、5年生の仲間に支えられた」「歴史の中での苦難を乗り越えて続いていることに誇りを持っている」「将来、子供たちに教え受け継いでいきたい」など、子供たちは地域芸能を通して、そして遠く離れた坂元小学校の子供たちと交流することで、地域での自分の存在価値や自己肯定感が高められている。
地域芸能を学ぶ学習活動において、それぞれの学校で行われている芸能の技能や歴史等の学習だけでなく、交流会を行うことで子供たちが地域芸能を継承したことの学びは深くなっていると感じる。今回伊江小学校では、村踊りの演奏をしてくれた地域の方々、衣装を着せてくれた保護者の方々などが交流会を傍らで見守っていた。その方々は、交流会が地域での発表とは違い、地域芸能に対する子供たちの思いが表出している場であったことに気付いたと思う。引き続き両校の交流を継続し、地域芸能をはじめとして、更に互いの地域理解を深めることができれば、将来、地域社会に貢献しようとする意識も芽生えるのではないかと、今後に期待したい交流会であった。
午後のタウンミーティングは、本プログラムに参加されている方に加え、伊江小学校の先生方や地域の方々等と交流会の振り返りとして小グループ構成で、子供たちの交流から感じたことを3つのテーマで意見を交流した。
参加者が、子供たちは地域芸能を地域の継承者から学ぶことで、技能的な面はもちろんだが精神面での成長が大きいと感じている。継承者と関わることで「郷土の歴史を学び郷土を愛する心が育っている」「先人への尊敬を感じている」ことが分かった。また、地域芸能を身に付ける過程で「芸能を受け継ぐことができた誇りや喜び」「仲間のありがたさ」「地域の一員としての自覚」「継承しようとする使命感」が育っていることが話題となった。子供たちの取り組みの姿勢や思いを受けて、私たち大人は、「子供を認める」「応援する」「地域の活性化を図る」などの課題を出し合った。その中で「子供の成長に応えられるよう、地域の指導する大人も学び続けなければならない」ことが出された。私たち大人が「学び続ける」ことができていれば、地域芸能が社会の変化に対応するための課題が生じたときに、持続可能なものにしていくための最善の変容を判断する力を備えられているのではないかと新たに気付かされた。限られた時間でのタウンミーティングだったが、子供たちの交流会の場を共有したことで話題が焦点化され得るものが多かったと感じた。
2回のこのプログラムに関わることができ、人口減少に直面している地域の持続を考えたときに地域芸能の果たす役割の重要性は高いと気付かされた。子供が学校や地域で芸能を学ぶことで、芸能だけでなく、郷土の歴史に誇りを持ったり未来について希望を持ったりすることが明らかになっている。そこで、伊江小学校と坂元小学校の交流会のように、地域芸能を取り入れている学校同士が課題を共有しながら改善策を見出し、地域の学校としての役割を果たしてほしいと願っている。そのためにも交流会がより充実し継続するために、学校として考えてほしいこと二つを提案したい。
一つ目は、両校の地域芸能の理解を深めることである。例えば、「歴史的背景なども含め、なぜ地域芸能が学校で行われているのか」を互いに知る必要があると思う。そのために、総合的な学習などで取り組んでいる様子や資料を両校で送り合い掲示しておくことで、自分たちの芸能と比較することができる。そうすることで、互いの芸能について興味が沸き、交流会では、互いの思いを伝え合い、より深い学びに向かうと考える。授業の時間をかけなくても掲示コーナーとして常に触れることができる環境の工夫が必要ではないだろうか。
二つ目は、地域芸能の継承を学校で担えるのは一部分である。しかし、学校で取り組んでいることを地域に発信することで、地域を巻き込み一体となって課題を考え進めるように仕掛けることはできる。そこで、この交流会を多くの人たちに参加してもらえるように手立てを考えてみてはどうだろうか。まずは、参加学年である。交流会は、伊江小学校は5年生、坂元小学校は4年生が主体であるが、その様子を次年度引き継ぐ3年生やすでに経験した5、6年生など、可能な学年が会場で見られるようにする。そうすることで、交流会を単学年の取組で終わらせるのではなく、多くの子供たちに地域芸能の継承についての思いが広まるのではないかと思う。次に、保護者や地域の方々へもプログラムを知らせ交流会への参加を呼び掛け、交流会を通して、子供たちの芸能から学んだことや継承についての思いなどを受け止めてもらい、地域として可能なことを考える一つの機会と捉えてほしいと願っている。
地域における学校の役割を有効に活用し、これまで続いてきた地域の財産でもある芸能をいかに持続可能なものにするのかを地域全体で考えてほしい。
インフォメーション
第2回 「伊江小学校×坂元小学校 子ども芸能交流会&伊江村タウンミーティング 」
日時 2020年2月13日(木)10:30〜11:30、16:00〜18:30
場所 伊江村立伊江小学校
ファシリテーター 出野紀子(コミュニティデザイナー)
司会 向井大策(沖縄県立芸術大学准教授)
参加・協力団体 伊江村立伊江小学校(5年生児童)、山元町立坂元小学校(4年生児童)、伊江村民俗芸能保存会(沖縄県国頭郡伊江村)、坂元神楽保存会(宮城県亘理郡山元町)、中浜神楽保存会(宮城県亘理郡山元町)
出演 神野知恵(国立民族学博物館機関研究員)、佐辺良和(琉球舞踊家)
【プログラム】
10:30〜11:30 第1部 フィールドワーク「伊江小学校×坂元小学校 子ども芸能交流会」の参観
16:00〜18:30 第2部 対話プログラム「伊江村 タウンミーティング」
(1)朝鮮半島の太鼓・チャンゴでレセプション(演奏:神野知恵[国立民族学博物館・民族音楽学者]、踊り:佐辺良和[琉球舞踊家])
(2)グループでディスカッション
テーマ①「自分たちが子どもたちに教えたいと思っているモノ」
テーマ②「子どもたちは大人から何を得ているだろうか」
テーマ③「大人たちは子どもたちから何を得ているだろうか」
(3)共有タイム
(4)手紙でコミュニケーション「今日の想いを3年後の自分に書いてみよう」